キレイなものだけ見ていたい病

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「もう朝だぞ。太陽はいつだって白いだろ」  祖父だった。相も変わらず聞きたくもないくらいに鬱陶しい声だった。テレビの砂嵐をフィルターに通してしゃべっているような、とにかく不快極まりないスクリーマーボイスだ。 「またこんなちらかしてよ。部屋汚くしてると、ゴキブリ出てくるぞ」 「出ねーよ。そんな絶滅種」 「教えてやるよ、汚い部屋にゴキブリが出てくる理屈をよ」  おもむろ祖父はスマートフォンとやらを取り出し、薄っぺらい四角形に「汚い部屋にゴキブリが出る理由」と語りかけた。  ピロン、と開発当時、足りない予測で精いっぱい想像したような「未来的な音」が鳴り、僕は思わず狼狽をあらわした。 「いつまで使ってんだよ。その太古のテクノロジー」 「まぁ、お前らからしたらポケベルみたいなもんだわな」 「ポケベルとか社会の教科書でしか見たことねえよ」  ただまぁ、実際問題部屋は汚い。昨日、人生をかけて挑んだ面接に失敗した通知が大気中のモニターから届けられ、せっかくしつらえた就職活動用のスーツも革靴も、ヤケになって部屋に放り投げた夜明けだ。 「おう、そういえばじいちゃん」 「なんだ」 「今どきこんな文字盤を針が走り回る時計、ジジイくらいしか使わないよ。面接官にまで笑われたよ」 「お前はその会社に入らなくて正解だよ」  俺が昔使ってたやつだ、持って行け、と祖父に手渡された銀色の腕時計はアナログ極まりない代物だった。昔から「願掛け」といって家族の私物を持ちこんだり、神社のお守りを忍ばせていったりと奇妙な風習が祖父の時代にはあったらしいのだが、神社なんて今では文明化の波にもまれて、かわいい巫女さんを拝むだけの場所になってるし、お守りも「運気アップの成分を含んだドリンク」という科学的見解から実体のあるドリンクとなっている。  祖父はスマートフォンをスワイプしている。昔は、あの姿の若者だけが街を闊歩していたらしい。想像しただけでシュールだ。 「おい、いたぞ。ゴキブリ」 「だからいないっつーの……」  僕が適当にあしらおうと腰を上げると、黒く光ってカサカサと動き回る物体が、スーツの影から飛び出した。
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