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その昔―――
この広い世界は今とは違った形をし、何百年か前の地殻変動後、大きく変わってしまったらしい。
『あれはその時に沈んでしまった町だ……』
大きな船に乗っている時、兄[あに]さんが海底を指差した。
眩く光る波間の奥には、暗い海底に沈み根本すら見えない高い建物、高速道路と呼ばれた長い道。
『あちらの丸い屋根はプラネタリウムと言う星を見る建物、あれは動物や魚を見る動物園や水族館、他にも書物が多数揃った図書館なんてのもあったんだよ』
古の話に興奮して身を乗り出す私を『危ないぞ』と抱き上げ、『みんな過去の文明の遺跡だ。俺はそんな場所を沢山訪れてみたい』と話してくれた。
◇
私は物心がついた頃、港近くの娼妓の母親に『珍しい銀の髪を持つ子だよ』と売りに出された。
大道芸団団長の息子である五歳年上の兄さんは、母親に引き摺られ泣き叫ぶ私を見て、『俺の弟にして面倒見る!だからコイツを買ってくれ』と必死に頼み込んでくれた。
幼い頃から頻繁に熱を出し、団長夫婦や団員達に厄介者扱いされる私を、兄さんは愚痴一つ言わず毎晩手を握りずっと守ってくれたのです。
私は体も力も弱かったけれど、横笛と鳥舞、そして劇の女形だけは誰にも負けたくなかった。
上手になれば、芸にも長けた兄さんと舞台に立てる……
それを励みに鍛練し続けたのです。
私は賢く優しい兄さんが、本当に大好きでした。
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