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十数年後―――
少年の時期を過ぎた私は、兄さんや団員達のような男らしい声になれないでいる。
だが、それが幸いしたのか、綱の上を横笛を吹き弾みをつけて舞う鳥舞や、兄さんと組んで歌い演じる歌劇は、多くの方に認められるようになった。
綱の上で長い髪と美しい衣装をなびかせ華麗に舞い、劇では高らかに歌う。
そんな私を人々は“銀の鳥”と呼んだ。
私は兄さんと言う宿り木さえあれば、一生鳥でいたかった。
「私は出逢った時から兄さんが大好きです」
ある満月の夜、一緒に月を見ていた兄さんに胸に抱く想いを伝えた。
「今の俺は無力だ。だが、もうすぐ貯めた金で自由にしてやる。そうなれば……待っててくれ」
全てを語らないまでも、昔と変わらぬ優しい手が私の手を包んでいく。
私は『はい』と返事をした……
その時、何頭もの馬に乗った兵が私達の小屋を取り囲み私の名を叫んだ。
「王が銀の鳥を所望だ」
出てきた団長夫婦や私達の前に、一番高位と思われる男が袋を投げ、ガチャリと大きな音が響いた。
団長達は慌てて袋を覗き、不気味な笑みを浮かべて震える私を前へと押す。
兵達は簡単に私を捕らえ、無理矢理馬車へ押し込んだ。
「兄さぁんっ!」
兄さんが私に手を伸ばし助けようとしてくれた。
なのに、そんな兄さんに多くの兵が襲いかかり、兄さんの体を固い地面に叩きつける。
「やめてぇぇーっ!」
私の声は兵達の怒声に消され届かない。
兵達がやっと離れても、兄さんは血だらけで横たわったまま全く動きません。
狂ったように泣き叫ぶ私を乗せ、兵達は馬車を走らせた。
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