うぐいす張り

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 生活音がこのレベルで聞こえてくるんじゃ、そりゃ揉めたりするだろうし、何かいい対策方法はないかと、人に聞きたくもなるだろう。  こういうことに縁がないから、俺にアドバイスができるだろうか。  そんなことを考えていたら、ふいに友人が立ち上がった。  ちょっと待っててくれと言い残し、部屋の外へ消える。  ばたばた廊下を進んで、お、今、階段を降りてるな…と思ったらすぐ上がってきた。また派手に廊下を軋ませてこっちへ戻って来る。  しかし、ちょっと行って戻って来るだけなのに、響く音が凄いな。住人が帰るたびにこれじゃ、部屋にいる奴はたまらないだろう。  そこまで思って気づいた。さっき、隣の人が帰って来た時、廊下からも階段からも全く音がしなかったことに。  これだけのおんぼろ家屋だ。どんなに慎重に歩こうと、その人の体重が軽かろうと、移動すればあちこちが軋み、音が上がる。  なのに隣からは、帰って来た時の扉の開閉音がするまで、何一つ物音がしなかったのだ。 「ちなみに、隣の部屋は空き室で、今、住人はいない。…これで俺の相談内容は判っただろ?」  顔に思考が全部出ていたらしく、部屋に戻った友人は俺を一目見るなりそう言った。 「せっかくの安い家賃みたいだけど…俺としては、引っ越した方がいい、くらいしか言えないな」 「やっぱ、そうだよな…」  自分でもそれは判っているのか、諦め顔で友人が肩を落とす。  隣室からは、いまだに何かが歩き回る音や、時折の水音が響いていた。 うぐいす張り…完
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