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うぐいす張り
大学の友人の引っ越し先は、びっくりする程おんぼろのアパートだった。
学校と、いくつか掛け持ちしているバイトが忙しいから、家には寝るためだけにしか帰らない。だから家賃の安さでここを選んだと、友人はにこやかに言った。
本人が納得してるならいいかとだけ思い、以後、俺はすっかり友人のアパートのことなど忘れていた。
そんなある日。
相談したいことがあるから泊まりに来てくれと頼まれ、俺は例のおんぼろアパートに行くことになった。
二階の角部屋が友人の部屋だが、何しろあちこち古いから、階段を上っても廊下を通っても、一足ごとにギシギシと建物が軋む。
まるでうぐいす張りだな。防犯には役立つかもしれないが、それ以前に日常生活に支障をきたしそうだ。
「凄いな、これ。他の部屋の住人が遅くに帰って来たら、それだけでやかましいってなりそうだ」
「…だよな」
冗談ぽく言ってみるが、友人の反応はあからさまに悪い。というか、顔色までも悪い気がする。
相談て言ってたし、何か騒音関係でトラブルでもあったんだろうか。
部屋に着くなり、相談事の内容を聞いてみる。でも友人は浮かない顔で、ああ、とかうんとか言うばかりだ。
会話の歯切れの悪さに若干苛立たしさを覚え出したその時、ふいにドアの開閉音が聞こえた。
音の響いてきた方向や近さからして、どうやら隣の住人が返ってきたらしい。
それにしても、予想通りだけれど、やっぱり壁とか薄いんだな。隣からの水音や室内を動き回る音がやたらと響く。
友人を見れば、音のする方の壁を食い入るように見つめていた。
ああ、やっぱり相談内容は、隣室からの音についてか。
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