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「穂積くん?」
「強がってる女の子を強がらせたままにしとけない」
「私、別に強がってなんか」
「大丈夫」
両手で握られた手にギュッと力が込められる。
「俺は、暗闇は嫌いじゃないんだ」
そう言いながら、穂積くんは私の両手を手に取り、彼の両耳に導いた。
「だから、愛ちゃんは俺に音が聞こえないようにして? 俺は愛ちゃんの目にちゃんと映るようにするから」
「穂積くん?」
「大丈夫だから、ね、愛ちゃん、こっち見て?」
斜め上に伸ばした自分の手の間にある彼の瞳が、じっとこちらを見つめている。
さっきまで「大丈夫」は私の言葉だったのに。いつの間にか彼の言葉になっていた。
これは、人に言うことで自分の不安を紛らわせることのできる呪文。私たちは今、きっとその呪文によって自己暗示にかかっている。
黙って見つめ合っていると、少しずつ、二人の距離が縮まっていく。
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