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グレープフルーツの匂いをプンプンさせて
近付いてきた陣内を見て、ハッと思い出した。
「ああ!忘れたっ!」
ご丁寧にカップボウルに山盛りに剥かれたグレープフルーツを持つその姿を見て
「ねぇ、陣内、電球詳しい?」
何故だか思い出した、切れて捨て損ねた玉。
玄関に置きっぱなしで出て来てしまったそれを
そもそも、どうして陣内に聞こうと思ったんだろうか。
「電球ですか?」
「あー、うん、家の電球切れてんの
いっぱい種類ありすぎてさっぱり分からん」
「LEDですか?」
「……さぁ」
キョトンとする私を見て、分かりました、と頷き
「じゃ今日見に行きます」
至極真面目な顔で私にカップボウルを差し出した。
は?
あの、……へ?
「いや、写メるからさ」
「元によってはLED、駄目なヤツもあるんですよ」
そう言いながら、カップボウルをグイグイ押し付ける陣内はとうとうそれを私に渡す。
「いや、でもわざわざ来なくても」
「今日、何時に上がれるだろうなぁ?
上がれなくても今日は車なんで中抜けで戻れますよね」
腕に填まった何となくゴッツイ時計を見ながら
あ、それあげます。とカップボウルを指差しまたまたさっきより一段と真面目に呟きながらクルリと向きを変える。
「え……」
なに、マジで来んの?
ってゆーか。
途端に浮かんだのは、薄汚れたリビング。
いやいや、無理。
無理だからさ。
目線を落とすと、てんこ盛りの薄黄色の粒々が私を見つめている。
それだけで唾液腺がぎゅぎゅ、っと締まって
エラの下辺りが痛くなった。
「あ、それ」
通りすがりのナースが私に声をかける。
「さっき陣内先生が必死に剥いてたヤツですねー?
有馬先生にプレゼントだったんだ」
「へ……?」
かーわいー、なんてヘラっと笑いながら通り過ぎる。
は?これ、全部食えって?
別にグレープフルーツ好きじゃないんだよね?
いやいや、それよりも
家に来られるのは困る。
だって陣内の事だ、絶対にバカにするに決まってる。
しかも、めちゃめちゃ真面目腐って。
想像がリアルに出来て、ブルッと身震いしながら
グレープフルーツを口に詰め込んだ。
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