カルテ1

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陣内とは10月に知り合った。 ボスに促された職場に突如やってきたんだ。 ヤツはボスに引き抜かれたのだそう。 ムカつく要素ばっかりを持っている陣内は これまたムカつく事に私の相棒といっても過言ではない。 「いや、ほんと、二人のおかげで上手く回ってるよ」 新しいボトルを頼むボスはとても楽しそうだった。 「でも、休みが無いのってどうなんですか? 完璧労働基準法違反でしょ?」 ムシが湧くというレア肉をこれ見よがしに頬張りながら、泡泡の液体で流し込み また、レア肉にかぶり付く。 私は肉が大好きだ。 「……何言ってんだ、医者に休みが無いのは基本中の基本だろ」 「また出た、根性論」 「ERは寝ずになんぼだろうが」 「年末年始は正に寝る暇なんてなかったですよ?」 目を細め、グラスを通して見たボスは 飼い犬の訴えにちっともブレる様子もない。 「肉食え、肉」 「タンが食べたい」 こんなとこだけでも我が儘を言うしかない。 陣内はある程度焼いた肉にしか手をつけなかった。 「ね、陣内、肉は生のが美味しいよ?」 脂で潤った陣内の唇が 朱い舌で拭われる。 ちょっとだけ、やーらしー、と思ったのは 仕方がない。 「ある程度の加熱により肉の真なる旨味が引き立つんですよ?」 唇が左右に引っ張られて、うっすらと笑みを醸す。 なんだいなんだい、ちょっと笑っただけでも 見目美しいって、なんだい。 とても美味しそうに見えた。 だって、仕方ないじゃん。 セックス、してないんだから。
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