一通の手紙

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捜査(捜索?)を続けるうちに、 おかしなことに気づいた。 だれも、 彼女を名前で呼ばないのだ。 依頼人である、 彼女の友人を除いて。 そしてまた、 彼女の友人のことを、 だれも名前で呼ばない。 もしや、 という予感が、 僕によぎった。 (もしかして、 誰にも見えないっていうのは……) 彼女は、 全てを話してくれた。 存在しない人物に扮して、 失踪を演じた理由。 その、 全てを。 「誰々さんの娘、 誰々の姉、 妹、 何処何処の学校の生徒さん。 社員さん。 何々さんの部下。 誰も、 名前で呼んでくれませんから。 わたしのこと」 寂しそうに言った彼女は、 ずっと、 どこにも自分が存在しないような、 透明人間になったような不安に襲われていたのだという。
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