第1章

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桜舞う木々の下で、上を見上げて寝転がる少女が一人、鼻歌を歌っていた。 そして、こう呟いたのだ。 『ずっと、待ってるから・・・』 誰に向けて、放たれた言葉なのか分からない。お付き合いしてる相手が居るわけでもない。 だけど、彼女は待っていた・・・。 誰かを、自分を理解して受け止めてくれる存在の、まだ顔の知らない誰かを。 名は、姫島 遥・・・。 まだ、学生だった。 初々しい時期なのに、何処か大人びていて、遠い世界をみていた。 うちの家は、いや、この社会はおかしい。・・・と思う。 家の中は、父親の言うことが絶対なのに、父親が作ったルールに父親自身が従わないのだ。上が上として機能していないのに、母はそれに従えという。 家のルールに一番従わなければ行けない人物は、ルールを作り、弱いものにルールを押し付けている本人の父親のハズだ。 なのに、一番、家のルールを守らなきゃいけないハズの人間が好き放題していた。 この頃は、こんな不条理がまかり通っていた。 こんな破綻した世界から、 連れだしてくれる誰かを、 姫島 遥はずっと待ち続けていた。 もう、遥自身の中では あんな家庭は捨てていた。 自分には関係ない。いつの日からか、そう思うようになっていった。 『ずっと、待っているから・・・』 彼女は繰り返す。 宙を見て笑う彼女の瞳に、狂った光が美しく宿っていた。 暖かく緩やかな生温い風が、 彼女の頬を優しく撫で、 木々の枝に咲く桜の花が ザァッと音を派手に奏でた。 草も、歌うように風に吹かれて横に倒れ、靡く・・・。 まさに春真っ只中の草原で、 自然の奏でるメロディーを 静かに全身で感じながら 今、彼女は傷んだ心を癒していた。
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