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桜舞う木々の下で、上を見上げて寝転がる少女が一人、鼻歌を歌っていた。
そして、こう呟いたのだ。
『ずっと、待ってるから・・・』
誰に向けて、放たれた言葉なのか分からない。お付き合いしてる相手が居るわけでもない。
だけど、彼女は待っていた・・・。
誰かを、自分を理解して受け止めてくれる存在の、まだ顔の知らない誰かを。
名は、姫島 遥・・・。
まだ、学生だった。
初々しい時期なのに、何処か大人びていて、遠い世界をみていた。
うちの家は、いや、この社会はおかしい。・・・と思う。
家の中は、父親の言うことが絶対なのに、父親が作ったルールに父親自身が従わないのだ。上が上として機能していないのに、母はそれに従えという。
家のルールに一番従わなければ行けない人物は、ルールを作り、弱いものにルールを押し付けている本人の父親のハズだ。
なのに、一番、家のルールを守らなきゃいけないハズの人間が好き放題していた。
この頃は、こんな不条理がまかり通っていた。
こんな破綻した世界から、
連れだしてくれる誰かを、
姫島 遥はずっと待ち続けていた。
もう、遥自身の中では
あんな家庭は捨てていた。
自分には関係ない。いつの日からか、そう思うようになっていった。
『ずっと、待っているから・・・』
彼女は繰り返す。
宙を見て笑う彼女の瞳に、狂った光が美しく宿っていた。
暖かく緩やかな生温い風が、
彼女の頬を優しく撫で、
木々の枝に咲く桜の花が
ザァッと音を派手に奏でた。
草も、歌うように風に吹かれて横に倒れ、靡く・・・。
まさに春真っ只中の草原で、
自然の奏でるメロディーを
静かに全身で感じながら
今、彼女は傷んだ心を癒していた。
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