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何故か吸い込まれるように中に入ると、そこはコーヒーではなく紅茶メーンのお店。
こじんまりしているし、一人で来ても大丈夫そうだと思い席に座った。
メニューを見ると、紅茶が数種類とスコーンや小さなケーキ等も選べるようだ。
彼が紅茶は勿論だが、特にフレーバーティが好きだったので季節の飲み物に目がいった。
『ストロベリーティかぁ』
きっと彼ならこれを注文すると思う。
スコーンを食べ始めたのも彼のおかげで、デートの時によく半分ずつジャムを変えて楽しんでいた。
「すみません……」
カウンターには、優しそうな白髪混じりの男性が一人いるだけ。
私の小さな声に反応し、ゆっくりと歩いて来てくれた。
マスターみたいにベストにシャツ、パンツを履いている紳士な感じの人だ。
物腰も柔らかい感じを見ると、商売目的ではなく好きだから始まった延長線上に思えた。
ストロベリーティとスコーンを注文すると、お店の雰囲気を眺める事にした。
客層も年配の人が多く、お店の造りが少しリッチな感じなので若者は殆どいない。
テーブルは十くらいで、カウンターは五人座れるといった具合だ。
家具には詳しくないが、置かれているテーブルや椅子は高級そうに見える。
『大人の休息所』みたいな隠れ家的なお店。
恐らくこの辺に住んでいても、若者には敷居が高そう。
今更ながら自分でもよく入ったと注文してから思ってしまった。
狭い店内に紅茶のいい香りが広がる。
店主もお客もゆったりとしていて、まるで家に遊びに来たみたいで妙に寛げた。
ジャズが小さな音でかかっていて、照明はシャンデリア。
窓から近くの公園が見え、春には桜も咲き素敵な穴場になりそうだ。
初めて来て高そうな雰囲気なのに、若者の私まで違和感なく寛げてしまう不思議なお店だった。
きっと店主の人柄とゆっくりとした所作、周りの人も穏やかな感じで、私を物珍しくジロジロ見る人も居ないからだと思う。
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