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赤色だった。
目に見える全てが赤色に染められていた。
血を思わせるには色が明るく、夕日を思わせるには色が霞んでいた。
紅魔館。
吸血鬼の姉妹を主人とする洋館だ。
左右対称に三階層の両翼伸びていき、中央には時計塔が聳える。上から見ると縦を太くした『T』を逆さにした形だ。
右翼の端には図書館があり、そこには一人の魔法使いが今も読書に励んでいる。
中央の扉を開けると大きく開けた空間がある。両翼に導く階段と奥に繋がる両開きの二枚扉が見てとれる。
この二枚扉を抜けると先代の当主が造らせた三階層吹き抜けの『主の間』と呼ばれる空間がある。
そこに二つの影あった。
一つは部屋奥の椅子に座り、一つはその前で片膝をついている。
「ーーーで、咲夜。あとどれ程で準備を終えるのかしら」
椅子に座る影が問うた。その声は見た目同様とても幼い。
「あと2日ほどで完了するとのことです。お嬢様」
咲夜と呼ばれた影が答えた。その声は見た目よりも深く澄んでいた。
「そう。漸くこの荒廃した世界から飛び立つことができるのね」
紅魔館の外。赤い雲に覆われた世界。そこに人は存在しない。いるのは生き血を求めて彷徨う吸血鬼の成れの果てだ。
彼らには人としての意思も自我も残っていない。ただただ自らの空腹を満たす為に放浪するだけだ。決して満たされることは無いのだが。
「どんな所なのかしらね。幻想郷という場所は」
「パチュリー様の話では二世紀前の東洋によく似た世界だと仰っていましたが、申し訳ありません。私にもよく分かりません」
「十六夜咲夜と名付けたのは私だけれど、貴女は東洋出身ではないのだったわね」
「はい。私はローグンウェルド地方の産まれなので」
「あそこの葡萄は他種と違って甘みが深いから好みだったのだけど、この世界になって久しく食べられていないわね」
「先代の遺物、ですね」
「遺物なんてものじゃないわよ。呪いよ、これは。生命を奪い壊し崩れさせる呪い。全く。我が肉親とは言え面倒なのはものを残したものだわ」
外の雲は厚く日の光を通さない。
生命のエネルギー源を失ったこの世界は気温が低く、草木もまともに生えていない。水は赤く濁り鉄の味がする。
「ともかく、二日後。私達は新たな生活を手に入れる。そうね、何なら挨拶がわりに先住民にちょっとしたサプライズをしてあげようかしら」
幼い声で小さく笑った。
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