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霊夢は人里に来ていた。
先日のルーミアの件以降、定期的に人里に赴いて結界の点検や、対魔の効果がある札を配ることにした。絶対ではないのなら万全に予防しようということだ。
「お、博麗の。精が出るな」
札を配布していた霊夢に声をかけたのは白髪の少女だった。
藤原妹紅。迷いの竹林で暮らす不死身の人間だ。幻想郷に来る前にいざこざがあり不死身になったという。火を扱うことに長けているのだとか。人前では使わず、そもそも人前に出ることもあまりない。
霊夢のことを『博麗の』と呼ぶ。
「珍しいじゃない人里に来るなんて。貴女もお札いる?」
「別にいらないよ。どうせ金を取るんだろ」
「一枚一両」
「自給自足の私には絶対払えない額だな」
妹紅は背中に背負っていた籠を一度担ぎ直す。
「私は竹林で取れた筍を飯屋に売りに行く所だ。筍一つと交換というのはどうだ」
「手を打ちましょう」
「そらきた」
霊夢と妹紅はそれぞれ札と筍を交換した。
筍は見た目以上の質量を手に伝えた。。
「結構いい筍ね」
「採れたてだから今日の内なら刺身で食えるぞ。明日以降は煮物にしたら日保ちする」
「筍の刺身なんて初耳ね。いい買い物をしたわ」
「そう言ってもらえるなら何よりだ。それじゃ、私は飯屋に行ってくる」
「ええ、ありがとう」
妹紅は手を振るだけで答えてこの場を去った。
妹紅の生活は基本が自給自足だ。しかし、全ての食料を竹林で賄えるわけではない。そこで、人里の飯屋や八百屋などに竹林で取れた筍や野菜を売り、その金で肉などを手に入れている。
そうした生活を何十年以上も続けている。
何十年も姿も変わらず人に接し続けるというのはなかなかどうして出来ないものだ。恐れられたりしてしまう。
そんな障害を解決したのが慧音という存在だ。
彼女は百年以上も里で子供達に座学を教えている。
その様な存在がいることで妹紅という存在が身近なものとして里で受け入れられている。
妹紅自身はやはり人と関わる事を最小限にしようとする気配があるが。
「さて、大方配り終えたわね。今日の予定はもう無いし帰ろうかしら」
帰り支度を始めた霊夢の下に一人の女性が走ってきた。
「巫女様! お助け下さい!」
肩を上下させ、その女性は続けた。
「私の息子がおかしいのです!」
霊夢は何か嫌な予感を得た。
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