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「お久しぶりです」
時は過ぎ、時代は移り変わった。
私もまた変わり続け、少し白髪の増えた髪を帽子で押さえつけて墓石の前に立つ。
酒井家の墓。
年に一、二度訪れるその墓前に、白い花が揺れる。
「佐倉ぁ」
ふと聞こえた子供の声に振り向く。
黒いワンピースを着た少女が、石の間を駆けてくる。
危ない、と思った時には既に遅し。
転んで打ち付けた膝を抱えて泣き出した子に、私は苦笑いで歩き出した。
だが、私よりも先に子に駆け寄る姿を見て足を止めた。
「ママぁ、膝痛い!」
「はいはい。いたいたいの飛んでけ~」
「たいたのとでけ!」
母子のそのやり取りを見て、口元に笑みが浮かぶ。
すると彼女が顔を上げ、私を見た。
「佐倉。父様に話は終わりましたの?」
「終わりましたよ」
「佐倉、足痛い」
抱き上げられた子が私に足を見せてくる。
私はそれを見て、抱く母と目を合わせて、苦笑を浮かべた。
「君がいつまでも佐倉と呼ぶから、この子は自分も佐倉だとわかっていないじゃないか。月子」
それに悪びれずに、薔薇の花を三本咲かせられそうな笑顔で笑う彼女。
私が愛した月子は、今も私の側にいる。
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