月子

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「お嬢様……」 何を言えばいいのか。私はわからないまま、止血した彼女の手を強く握りしめた。 あゝ、こんなにも冷たい。 恐らく私の顔も相当青ざめていることだろう。 月子様は、そんな私を見て、笑みを浮かべられた。 「ごめんなさいね……貴方は悪くない。 私が、結婚を厭うて死ぬだけ。 貴方には、暇を差し上げますわ……」 そう言って、月子様は私の腕に頭を傾け、その瞬間、彼女から一切の力が抜けていった。 「っ月子様! 月子!」 必死に、叫ぶ。 頬を伝うものに気付いたが、心から溢れるものを止める術を私は持たない。 私が月子様を愛しいと思ったように、月子様も私を。 私が月子様を憎んでも、変わらず。 王子様を待つと言ったあの頃から、彼女は、変わらず。 ただ私だけが、変わり続け、彼女を殺した。 否、変わらないのに。 変わらず愛しているのに。 嫉妬のあまり厭わしいと感じている自分に気付いていなかった。 白い顔で微笑む彼女。 昔と変わらないその笑みは、どこまでも無邪気で幼かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加