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「女の子は幸せになれるのよ。白馬の王子様っていう方が迎えに来てくださるの。
えぇ、だって海の外のご本に書いてありましたもの。
本当ですわよ。
だからね、月子はずっと待ってますわ」
そんな子どもらしい愛しい夢を月子様が語ったのは何時だっただろう。
代々執事の家系に生まれた私が学業を終え、この酒井様のお屋敷で仕え始めた、その頃だったか。
あの頃から、月子様はこの屋敷の中心だった。
名の知れた大富豪の両親は勿論、だれもが、勿論私も例外なく月子様の虜になった。
月子様が微笑むだけで、庭の薔薇が三本咲く、などと言うものがいるほど。
月子様は、それはそれは愛らしかった。
その愛らしさは、成長するにつれて美しさへと変容していった。
だが。
月子様は変わられた。
「佐倉、お茶を」
壁越しの指示に、そろそろか、と既に沸かしていた湯をティポットに入れて月子様の部屋に運ぶ。
月子様の部屋の隣が待機部屋になっており、私は普段そこで過ごしているため、その移動には一分もかからない。
その途中、若い男とすれ違う。
寝乱れたような髪をして、着物の着付けもだらしない、この屋敷にはおよそ似つかわしくない若者。
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