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「これは、夢ね。私、死ぬ前に都合の良い夢を見ているんだわ」
虚ろな目でさもおかしげに笑う月子様。
「馬鹿、でしょう。あの窓の鍵を、私は閉めたことはないの。
いつか、あそこからあなたが来てくれないかって、そんな夢を見て。
それが叶わない腹いせに、他の男を招き入れたりして。
そうするうちに、あなたが心を閉ざすのは、見えていたのに。
見えて、いたのよ……」
「いつ、から……」
思わず漏れたそれに、月子様は泣き笑いを浮かべ、私を見上げた。
「……酷い、じゃない。
始めたのは、あなただったのに。
好きだと、目で言っていたのは、あなたが先だった。……でしょう?
なのに、私が応える心を持ち合わせた、時には、貴方は気持ちを塞いでしまうなんて。
私は育んだ気持ちを持て余して馬鹿をして。
まるで、道化だわ」
心臓が締め付けられたようだった。
まさか月子様が、私の浅ましい恋情に気付いておられたなんて。
「ですが、月子様はそんなこと一度も」
「言えないわよ。
童話のお姫様は、みんな、王子様から告白されるのだもの。
私には、その方法は、わからなかった」
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