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回る歯車
帰り道には買い物を。
今日の晩御飯をカゴに入れてレジで精算。
もうこんなことは当たり前でまるで主婦。
「って、あたし主婦なんだ」
なんて小さく口にして苦笑い。
家に帰ってエアコンの効いていない部屋に小さく息を吐く。
スイッチを入れてソファに座って天井を見上げた。
「……違うかな?」
思い出したのはカイルの言葉。
いや、そんなことよりも──。
「やっぱりダメかなぁ」
ヒナはそう呟いてクッションに顔を埋めた。
彼が帰ってきたのは丁度日が暮れた頃。
「で、面接は?」
そんな声に苦笑する。
「聞かれたくないならもう聞かないけど?」
「そうじゃないよ。でも、多分ダメっていうか――」
そしてまた思い出す。
「ヒナ?」
「あ、えと」
なんて名前だった?
聞き覚えがあるような無いような、そんな名前。
それは確か――。
「ねぇ、ヒロ君。文香って」
あまりに予想外な彼女の口から発せられる言葉に琥珀の瞳が揺れる。
「ヒロ君のお母さんだっけ?」
口にして確信する。
そして手を合わせた仏壇の法名には「香」の文字があったはずだから。
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