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ん?まるでその人の事を良く知っているかのような口ぶりだって?
いやいや、遠目で見たことはあれど直接会話を交わしたことなんて恐れ多くて一度たりともないさ。
可憐にも関わらず反則的な強さを誇る彼女はあまりにも有名なもので嫌でもギルドに行けば耳に入ってくるんだ。
ほら、今もまたあそこのチームが魔戦乙女(ワルキューレ)について熱心な議論を行っているだろ。
「また魔戦乙女(ワルキューレ)がアルテラ神殿の新階層を単独撃破したんだって?」
「おいおい、確かつい先日も別のダンジョンを攻略してなかったか?」
「相変わらずな強さだよなぁ、シルヴィア様は」
各々が思い思いに自身が知っているだけの情報や情熱を口にするがシルヴィア・シュバレインは、やれ攻略だの可愛いだの強いだの程度の低い内容ばかりが耳に突き刺さる。
酒を手に取り話に華を咲かせる彼らを尻目に僕は本日の仕事を決めるためにギルドの受付嬢アカネさんが待つカウンターへと向かった。
「おい見ろよ。またエトナの奴が"討伐系"のクエストを受けようとしてるぜ!」
「おいおいやめてやれよ。採取系かもしんねぇだろー」
「ギャハハハ!!」
すると、まだカウンターにたどり着いていないにも拘らずいきなり名指しで僕に対する罵声が酒処から飛んできた。
これもかれらが言っていたように"また"いつも通りなので気にせず眉間に皺を寄せながら……そう、気にせず受付へと歩を進める。
「あ、こんにちはエトナさん」
受付のすぐ手前まで近づくと、柔らかい女性の声が僕の名を呼んで出迎えてくれた。
「ども。こんにちは、アカネさん」
何度も通い続け、もう実母の声よりも聞きなれたのでは無いかと思わせる彼女、受付嬢アカネさんの声は聞いただけで姿を見なくても間違える事はない。
眉間に集まった皺を伸ばしながら顔を上げると栗色の肩に掛かる髪、身長は少し高いが控えめな胸を持ち、ギルド御用達の制服を着た女性がカウンター越しに立っていた。
「本当にあの人たちは……、すみません、後でよく言っておきますから」
「あぁ、いいですよ。"魔術師なのに魔力が無い"僕がおかしいことくらいわかってますんで。彼らの言い分は確かですし。」
これもいつも通りの会話である。
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