#1.大人と子ども

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「ヤバいよ、栞奈!!キャー、ヤバーい!!」 あなたのボキャブラリーも、十分ヤバいけどね・・・ なんていう私の想いなど、梓には届くはずがない。 聞き取るのも難しいくらいの黄色い声を上げているんだから。 「なにが?」 「栞奈ってば、知らないの!?人生の半分、いや、半分以上損してるよ!!」 私が呑気なことを言おうものなら、"人生を半分以上損している"という驚きの回答が返ってきた。 ―――――答えになってないし・・・ 心の片隅で届くことのない文句をつぶやきつつ、この場合は何も言わない方が無難だと思った。 「だって、あの美咲 陸(みさき りく)がよ!?同じクラスなんだよ!?コーフンするでしょ!?」 そんなことを言われても、その美咲陸を知らない私にとっては、ただただ疑問符が浮かび上がってくるだけだった。 一方で、女子たちの歓声は増していくばかり。 男子は、少しというよりとても迷惑そうな顔を向けている。 女子はその目線に気付かないのか・・・? 女子の力、恐るべし・・・ 「なおやー」 「んー?」 「美咲陸って誰?」 周りの子ばかりか、梓にまで置いて行かれた私は、近くにいる直哉の席へ行き、顎を机に乗せてそう尋ねた。 「なんだ、神崎知らないの?」 「うん」 「女子曰く、イケメンらしいよ。俺には、よー分からんけど」 はーあ、なんて小さなため息を漏らしながら、しょんぼりと肩を落としている直哉。 「直哉はカッコいいと思うけどなー」 教室前方を見ながら、私はぼそっと言った。 もちろん、他意はなく。 「神崎?」 「ん?」 「男には、あんまりそんなこと言わない方が良い」 「なんで?」 褒めるのは良いことなのに、なんて思った私。 「男ってバカだからさ、神崎に他意はなかったとしても、勘違いしちゃうから」 「へー。でも、大丈夫だよ」 「私のことを好きになる人なんていないでしょ」
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