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「ありがとう!!」
さっきまで物静かにしていた梓だったけど、今は、何というか・・・
言葉では表せないけど、とにかく嬉しそう。
梓は照れくささを隠すかのように微笑み、直哉もそれを見ていた。
そんな梓は、小さい頃からのれっきとしたカメラガール。
写真を撮るのも、写真に写るのも大好きだった。
本人曰く、お父さんから影響を受けたらしい。
高校入学と同時に写真部に入り、コンクールに作品を応募したり、校内の展示スペースに写真を飾っている。
その度に入賞し、今では部を引っ張るエースだと聞いた。
「どんなところがいいの?」
「迷いがない感じ」
どんなところがいいのかという抽象的な私の質問に、直哉はそう即答した。
「ん?」
「俺の父親が写真撮るのが好きで、よく言ってるんだよね。写真には、撮影者のその時の気持ちとかが素直に現れるって」
梓が、直哉の方を真っすぐな瞳で見つめていた。
色素の薄い髪の色が、午後の日の光に照らされて、栗毛色になっていた。
隣に座っている梓の今の気持ちが、間10センチを越えて胸にそっと届いたような気がした。
春の陽だまりの様に優しく、眩しいものに少しだけ戸惑った。
写真をほめてもらって嬉しいというレベルではなくて、コップの中の水に浮かんでいる氷を溶かしてしまいそうなくらい、熱かった。
「あっ!私、学校に忘れ物しちゃった!戻って取ってくる!」
「え、今から?食べてからにしようよ」
帰り支度を整えている私に、梓が不思議そうに目を向ける。
「・・・あ、俺も」
「翔希も?仲が良いねー」
仲が良いのは、誰がどう見てもあなたたちの方だけど。
梓は少し疑っているようだけど、一方の直哉はそんな様子は欠片もない。
それよりなにより、メニューを注文する前で良かった。
2人をお店に残して、中野くんと私は外へ出た。
「はぁ~」
内心は、これまでに経験したことがないくらいドキドキしていた。
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