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「食べてから行こうよ」という梓の言葉を振り切っていなければ、必要とされるかどうかすらも分からないお節介が意味をなさなくなる。
「中野くん、忘れ物じゃないよね・・・?」
「ウソだよ」
「ありがとう!!」
「直哉のためでもあるし、お互いさまだよ。てかさ、いい加減腹減った」
「別のとこ、探そっか」
「だね」
私は、未だに恋を知らない。
でもね、梓。
恋に落ちたかどうかは、分かるよ。
そう思いながら、何気なく見上げた春色の空は雲一つなくて、梓のことを支えてくれているような気がして一人嬉しくなった。
結局、私たちがお昼にありついたのは、14時を過ぎたころだった。
「ん~、おいひ~~」
入ったのは和食屋さん。
価格もリーズナブルで、学生に人気がありそうだ。
どこか田舎っぽい雰囲気があって、アットホームな感じが漂っている。
こういうところに来ると、お母さんのご飯を食べているように感じて、どこか落ち着く。
「聞いて良い?」
「? 良いよ?」
「お兄さんがいるんだよね?」
「そうだよ?」
「学校で話すって言ってたから・・・」
「お兄ちゃん、うちの学校で働いてるの」
私がそう言うと、中野くんは納得してまた食べ始めた。
確かに、今朝の話からは気になっても仕方がない。
自分の説明不足に反省しつつ、次へと話題を進める。
「サッカーいつからやってるの?」
「幼稚園、だったかな・・・?」
「えぇ!小学校からじゃないの!?」
予想を上回るリアクションの大きさに、中野くんはすっかり驚いていた。
「園の近くに大きなグラウンドがあって、そこで小学生がサッカーの練習してたの」
「うん」
「それから毎日のように眺めてたら、コーチに混ぜてもらって。それがきっかけかな」
「そうだったんだ」
とても懐かしそうにその頃の思い出している中野くんは、目を伏せて手元を見つめている。
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