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食事はお互い終わっていて、今ではすっかり対話モードに突入している。
「神崎さんは?なんかやってた?」
「中学までバスケ部だったよ」
決して強いわけではなかったけど、それでも一応主将だった。
地獄のような夏休みの練習は、声を掛け合ってみんなで乗り越えてきた。
その時は目の前のことに必死で分からなかったけど、今となっては、あの頃は本当に楽しかったと思う。
「今はバスケ部入ってないの?」
「入ってないよ」
だから、急に羨ましくなる時がある。
体育館やグラウンドから聞こえるブザーや笛の音、バッシュの音。
その場独特のにおい。
今でも、変わらず大好きだ。
「今度、見に来ない?うちの部」
「え?」
「神崎さんが良かったら、だけど」
「行く!行きたい!」
「都合が良いとき連絡してね」
「わかった」
・・・ん? 連絡?
私たち、お互いの連絡先知らないよね。
「これ、俺の」
中野くんは、すぐそこにあった紙ナプキンに黒いボールペンで連絡先を書いて私にくれた。
渡されたのは、メールアドレスと電話番号。
丁寧に書かれた英数字を眺めていると、ふわりと一つの疑問が芽を吹いた。
「中野くんは、さ」
「ん?」
「LINEとか、しないの?」
「あー、うん。便利だけどさ、軽い感じがして俺はあんまり好きじゃないから」
「私も、そう思う」
「おー、気が合うねー」
そんな風に話した人の中で、私と意見が合致した人は数えるほど。
意見が違うのは、それはしょうがないけど、「古い」とか「栞奈面白いね」と言って、バカにされるときが何度もあって、ポジティブな私でもへこんだ。
――――『あんまり好きじゃない』
でも、その言葉が嬉しかった。
「それと、朝大丈夫だった?」
「あーっと、美咲くんだっけ。私には合わないみたい」
「全部顔に出てた」
我ながら恥ずかしい。
「あとさ、翔希で良いよ。苗字長いし」
「あ、うん」
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