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終わりまでサッカーの練習を見ていた私に、中野くんは笑いながら近づいてきた。
「栞那、なんでいるの?」
「え、だって今日練習見ていくって・・・」
「・・・でも、終わりまでいるとか思わないし・・・」
私もそのつもりだった。
でも、練習を見ているうちに、頑張っている中野くんより先に帰るのは申し訳ない気がした。
それに、今日はバイトも入ってなかったし。
私たちの高校は商業高校なので、定期考査前後を除いては、バイトは比較的奨励されている。
それを伝えると、中野くんは恥ずかしそうに笑った。
「・・・なんかそれ、めちゃくちゃ嬉しい」
「ふふっ」
嬉しいなんて言われたら、こっちまで嬉しくなってくる。
そして何気なく腕時計に目を移すと、19時を回ろうとしていた。
私の頭が通常運転に戻る。
次の電車は、19時12分。
これを逃したら、次は19時47分。
何がなんでも、乗らなきゃいけない。
「・・・走るよ!」
「うん!」
私は、中野くんに手を引かれて走っていた。
春の風が夜の熱気に包まれ、少しだけ蒸し暑かった。
男の子らしい、ごつごつした手に包まれている私の右手だけ、妙に体温が上がっているのを感じていた。
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