はじまりは突然に

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はじまりは突然に

 中学2年の時、転機が訪れる。14歳となった僕は、心身ともにもはや大人だった。背丈でも小柄な節子を追い抜いていたし、年上の女性への恋心は募るばかりである。  その年の夏は2泊3日の西伊豆旅行。運悪く2日目の朝から発熱した僕は、みんなが海水浴に興じている間も、ホテルの部屋で布団に入っていた。なんせ6家族総勢15名にもおよぶ団体旅行である。4つの客室に分かれて滞在していたのだが、そのうちのひとつで夕食時を待ちながら読書やトランプ占いをして時間をつぶしていた。が、いつしかうとうとしてしまったようだ。  と、まどろみのなかで物音がして、部屋の入口の引き戸が開く。寝返りを打って躰の向きを変えると、何とそこには、予想外の近さで微笑む節子の顔があるではないか!  ビックリしつつも、さっきまで読んでいた本の「チャンスの女神に後ろ髪はない」というフレーズが瞬間的に頭に甦ってきた。そう。本当にチャンスは突然やってくるものだが、つかみ損ねたら取り返しがつかないものなのかも知れない。  「ヒトシちゃん、具合はどう?」  「お、おばちゃん」  「お母さんに頼まれてプリン持ってきたわよ。お熱のときはいつもプリンなんだって?」  「えっ? うん、まぁ」  「食べる? 開けてあげましょうか?」  そこには、まだ2人の子を産む前の、いつも僕と遊んでくれた日の節子がいた。幼い頃からずっと思い続け、時に妄想の中で穢してきた憧れの叔母である。  心のなかで、悪魔が僕の背を押した。
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