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透明人間の行動
男はすごい透明薬を手に入れた、と嬉々して博士のもとにやってきた。
「何がすごいんだい」
博士が問うと「それを見せてあげます」と男は豪語して、一気にすごい透明薬を飲み干した。
飲んだそばから徐々に透明になり、やがて男は完全消えた。
そう透明人間になったのだ。
そうして男は現れた。効果が切れたのだ。
いったいキミは何をしたんだい、と博士は言った。
「何をしたのか分からなかったんですか」
男は愕然としていた。
「40字詰原稿用紙だったら30行にものぼるであろう僕の行動が分からなかったんですか」
男は博士を問い詰める。
「声すらも聞こえなかったよ」と博士は主張。
「ねえ、あなたも分からなかったんですか」
男は記録係の私に問いかけてきた。
「分からなかった」
男が透明になって行った行動の全てを記録するのが役目の私は、男の主張を尊重して30行ほど記録用紙を空けてはある。
が、男が何をしたのかさっぱりなのだ。記録のしようがない。
果たして男は透明人間になって何をしたのか。
透明人間の行動は不透明である。
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