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図書室はいつもにはない静寂が支配していた。
浅木一人いないだけで、こんなに違うものなのだろうか、と思えるほどに、空気は冷たい。
その冷たさは、冬という季節特有のものではなく、心の底まで冷え切るようなものであった。
バレンタインという心が浮かれる行事のはずが、水嶋にとってはあまりいい意味ではないものになってしまっていた。
今すぐここから飛び出して、浅木のところへ駆け出して行きたい。
そんな衝動に駆られるけれど、司書である水嶋はそんなことはできない。
立場が許すわけもなかった。
どうして同じ立場の生徒ではなかったのかと、何度も自問したことが、また水嶋の心に浮かんで、波紋を作っていく。
考えすぎはよくないのに、心に浮かぶのは、そういう負の感情ばかり。
その気持ちを振り切るように、何度も時計を確認するけれど。
その針が示す時間は、全く進んでいないようであった。
浅木と過ごす朝の時間はあっという間なのに、どうして今の時間は進んでくれないのだろう。
そんなもどかしい気持ちに支配される。
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