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荘厳な教会の中で、女王はひとり祈っていた。
「神よ、どうか叶えたまえ」
自分が弑した双子の姉、その御霊を今一度、現世へと導きたまえ。
そのためならどんな代償でも自分は払うであろう。
それは魂からの叫びだった。
「ずっと待ってるから」
呟き、女王は祭壇に背を向けた。
「陛下」
側近の将軍アレックスが声をかける。
軍勢はすでに整い、あとは女王を伴い出発するだけだった。
「行くか」
女王はマントを翻し、アレックスの先を行く。
アレックスは女王の後をついてゆき、返事をする。
「はっ」
女王が即位してから、国の領土は拡大した。
今回も領土拡大するであろう。
この女王は敗戦がただの一度もなかった。
皆は口々に言う。
連勝の女神、神に愛された娘と……。
しかし、女王からすれば、忘れもしない。
八歳と十六歳の時、運命は狂ったのだと。
いや、生まれた時、生誕の祝いの席でひとりの占い師が言った言葉がすべてを狂わせたのだ。
「ひとりは国の救世主に、ひとりは国を滅ぼすであろう」
目印として、国を滅ぼすものには花の印があると。
だが、双子には花の印はなかった。
占い師の言葉は黙殺された。
ところが、双子が八歳の時、姉のシュリナの背に鮮やかな花の印が浮かんだ。
父王は娘を塔に閉じこめた。
だか、何者かが姉を弑した。
「わたしが、わたしでいる間にわたしを殺してね」
それが、姉と交わした約束だった。
姉を殺すのは、殺していいのは、妹のわたしだけだったはずなのに……。
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