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駈け落ちを決意してから、時間をかけたのがいけなかったのかもしれません。
時間が経つほど、悪い考えばかりが頭を過るのです。
本当に、無事に駈け落ちできるのか?
後から連れ戻されるのでは?
人とは身勝手な生き物で。
華族の、安穏とした生活から離れることが、急に恐くなりました。
彼女との、甘く幸せな時間を上回るほどに。
そして、私は約束の場所に行かなかった。
代わりに、私の父が出向き、僅かな金を手渡し、家から出るよう言いました。
その後、戻った父は、彼女から手紙を託されていました。
約束を破った私に対する罵詈雑言が書かれたであろう手紙。
読む覚悟すら持ち合わせない私は、それを火にやろうとしました。
しかし、その寸前で父に止められ、思いっきりぶたれました。
今でも覚えています。
あのときの、父の形相を。
温厚な父とは思えない、まさしく般若。
「お前に読む気がないのなら、わしが読む!逃げることは許さん!
身分がどうであれ、人を傷つけたお前への罰だ!」
言いながら、私から手紙を取り上げ、読み上げると、そこには一言しかありませんでした。
『ずっと、待っていたのに』
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