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モアイ像に背中を向けて持ってきた扇を広げる。
これをくれた母の顔は思い出せないけれど舞と彼女の想いはオレの中に染み付いている。
彼女は『母』であると同時に『舞と戦の師匠』だった。
『いいかい、香弥。アンタのヒョロいその身体じゃ剣は振るえない。だからアンタは『戦舞』を覚えな』
年いくばもねぇガキに辛辣なこと言うんじゃないとか今だったら言えるけどさ……言えるわけもなく覚えたわ。
血反吐吐くくらいやって割と筋力もついた。今じゃ、母が使ってたこの扇ーー鉄扇を軽く扱えるようになったわけで。
一つ振るえば、風切り音。
二つ振るえば、空気が震える。
「ん。悪くはない」
ここに連れてこられてから一度も振るっていなかったから鈍ったかと思ったがそうでもなかったようだ。
これなら一差しいけるな。
観客もいない
(モアイがいるけど)
楽の音もない
(葉が擦れる音があるけど)
たまにはそんな静寂の中、舞うのも悪くはないだろう。
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