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第1話 初恋
風倉翔子は 走っていた
北城潤一郎との待ち合わせは 午後5時なのに もうあと20分しか無い
翔子は 商店街を抜け 坂を登り土手を駆け抜け 見晴らしのいい橋に出た
そこから住宅街を通りすぎ 目的の公園が 視界に入った
あれ?
彼の姿が見えない どうしたんだろう?
翔子の表情が一変して曇った
翔子は辺りを見回しながら 公園のベンチにひとり座った
鞄の中から コンパクトを片手にとり 翔子は口紅を塗り直した
その口紅は 翔子には 少し赤過ぎるのでは無いかと 母親に指摘されたのを
鏡に映る自分の唇を見ながら思い出していた
彼は 赤過ぎると思うだろうか?
翔子は自分が童顔で 23歳よりも若く 幼く見えがちな事を気にしていた
風倉翔子は 長崎の生まれで 実家は魚屋を営んでおり
父親の勝男は 包丁一本で家族を養ってきた
母親の真寿子は 店を手伝いながら 4人の娘を育てあげた
翔子は 4人姉妹の3女で 服飾専門学校に通った後に
ある大手のブランドの関連会社に就職していた
北城潤一郎は 少年時代から 地元では 一際目立つ存在だった
身長は180センチを越え 甘いルックスで
誰とでもすぐに親しくなる性格で 男女を問わず人気があった
翔子は 幼い頃から 格好いいお兄さんとして 潤一郎に憧れていたが
その頃は特に親しい関係では無かった
高校生になった時 ひとつ上の学年だった潤一郎は
女子生徒の注目の的になっていた
翔子もまた 潤一郎に熱を上げる女子生徒のひとりだったのだが
潤一郎は高校2年生の夏に その高校で 男子生徒から一番人気のマドンナ
高瀬川美鈴と付き合う事になった
その年の2学期の始まりは 大勢の女子達が噂を広めて騒いでいた
翔子は いつも遠巻きに 潤一郎の姿を目で追いかけていた
授業中に 窓辺の向こうの校庭で
体操着姿でボールを追いかける潤一郎を見詰めた
授業が終わり 用事も無いのに 用事があるフリをして
2年生の靴箱の側に立ち 彼が友達と一緒に喋りながら帰る姿を見送った
そんな遠い存在だった潤一郎と 翔子が再会したのは
服飾専門学校に彼が後輩として入学して来た時だった
翔子は専門学校で あるサークル活動を行っていた
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