第1章

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首吊り……2回。 服毒自殺……4回。 電車への飛び込み2回。 何度となく死のうとした。その度に偶然失敗してしまう。 死にたい。できることなら、もう死んでしまいたいんだ。 そう何度思っただろうか。 木造の安いアパートで私は天井を見つめながら3度目の首吊り自殺に失敗した。 首を掛け。体重を乗せた瞬間、太い縄はちぎれて苦しいと感じる間もなく やす布団に落ちてしまう。 鼻を打ち、何度も痛みにもがいた後、いつも目に入るのは病気で亡くなった 彼女の遺影だった。 彼女の微笑む写真を見ながら、何度、この苦痛に耐えなければいけないのか。 彼女が死んでからと言うもの、仕事を辞め、無気力に彼女の遺影を見ながら 空虚な日々を送っていた。 「いっそ自殺して彼女の元へ行きたい」 そう思ったのは貯金が尽き、来月の生活もままならなくなってしまったことも理由の1つだ。 それなのに、何度、気持ちを固めて遺書を書いても死ぬことはできなかった。 電車へ飛び込もうとした時も、勇敢な男性に掴まれ説教をされる。 「生きていれば良いことがある」 だとか。 「死んだら両親が悲しむ」 だとか。 多くの人が私を説教するのだが、その言葉は私の心に響くはずもなく ただ、むなしく耳を通り抜けていくだけだった。 年老いた両親は、私の身を心配して同居を強く勧めてくる。その発言には 彼女と住んでいた空間にいさせたくはない。という言葉もチラホラと耳に入って来た。 私は怒り、両親を拒絶した。 「今日こそは死なないと」 いつしか死ぬことが目的になり、辛いとか。苦しい。という気持ちはなくなっていた。 布団から起き上がると、床には家賃の未納についての手紙が落ちているのが目に入る。 冬も半ばになり、冷え切った部屋から上着も身に着けないで私は外へと出た。 夜の暗闇に外灯が点々と光っている。偶然が起こらない死に方。 私はふらふらと歩きながら死ねる方法を考えていると、駅前に到着した。 また電車に飛び込もうかと思ったその時、私の視線は8階建てのマンションへと移った。 「ああ、なんだ。簡単じゃないか」 私は笑いながらマンションへと侵入を試みる。既に夜中だからか、人がくる気配はなかった。 誰にも見つかることなく8階の非常階段に辿り着く。 靴を脱ぎ、随分前に書いた遺書が風にとばされないように置き石のようにする。
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