重い

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『待ってるから!ずっと…ずっと待ってるから…!』 顔を赤らめながらそう言って手紙を渡し、走り去った彼女の後ろ姿は、綺麗だった。 桜が舞う。 舞い落ちた桜は生きる力をなくしたように地面に散らばっている。 「何が待ってるだ…。俺の性格を知ったら引くくせに。どうせ綺麗事しか言わないくせに」 阪本陽牙(サカモト ヨウガ)が独り言を言いながら小石を蹴る。 名前も何も知らない彼女に重い思いを馳せながらも、少し気になっている自分に呆れている。 「男ってチョロいもんだなーあ。俺が女ならたぶらかしてるぜホント」 手紙を夕日に透かしながら帰る。 春。 それは別れの季節、出会いの季節。 「誰なんだろうな」 ポツリ呟く陽牙に反応したかのように野良猫が近寄ってきた。 「お前も誰かわかんにゃいよなー、しかたないよにゃー」 野良猫は眠そうに目を瞑りながらにゃあと返事をする。 「こんなに知らない人なのに名前が気になったり、何してんのか気になるのは重いんだろうなあ」 今迄の彼女達に言われてきた《重い》という言葉を思い出し、再びショックを受ける。 「俺が普通にしてることが重いって言うんだもんなー!どうすればいいかわかんねえよ!もー!」天に怒りを叫びながら家にたどり着いた。 「ただいま」 誰もいない家からは何の反応もない。 聞こえるのは近所の子供の遊び声だけだ。 ソファに座り、落ち着いた状態であの綺麗な彼女の手紙を開いた。
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