契約

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話をすると彼女のことが少し分かった。 彼女は遠い地方の貴族だと言うこと。 優秀な姉と特殊な妹に挟まれ、両親からの愛情は自分には向けられなかった。 いても、いなくても同じ。 彼女はいつしか何かに怯えていた。 それは辛辣に浴びせられる言葉だったり、優秀ではない自分に向けられる目だったり。 自分の身を守る為に城を抜け出し、体術・格闘技を学んだ。 城に戻っても彼女は咎められず、やはり自分はいらない人間なのだと確信した。 ある日 海に落ちて流され、この地に流れ着いた。 倒れているのを発見され、病院に運ばれたそうだ。 城の人間が彼女を探さないのは、それが原因なのかもしれない。 だけど、彼女はただの可哀想な人間ではなかった。 何故なら、彼女の目は死んでいなかったからだ。 彼女はいつか元の地に戻り、自分がいらない人間じゃない証明をしたいと言った。 その思いに感化されたのかもしれない。 「それは復讐か?」 的外れな質問だと思いつつも、そう口を開いた。 彼女は少し困ったような、迷ったような表情を浮かべた。 「そうですね。復讐かもしれません。」 その時、初めて彼女の黒い笑顔を見た。 「その復讐 私も手伝って良いか?」 「えっ?」 かなり意外な言葉だったのだろう。 「その心意気とても素晴らしいと思う。」   私は間髪入れずにまた言葉を続ける。 「あの……」 彼女の戸惑う声が遠くなる。 「人間はどうしようもない生き物だ。 辛い思いをした後 立ち止まるか、その場で崩れるか、前に進むか、……思いを遂げるか。」 ユキナの目はもう死んではいなかった。 「私はアイツらに復讐する。 同じぐらいの痛手を受けてもらう。 私をこんなにして、笑っているのは腹立たしい。」 更にユキナは続ける。 「私に貴方の復讐を手伝わせて欲しい。 そして、貴方も私の復讐を見届けて欲しい。」 少しの沈黙。 そして、 「……分かりました。お手伝いしてください。 私も貴方の復讐を見届けます。」
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