70人が本棚に入れています
本棚に追加
「どう、して」
ポロリと漏れ出た言葉は、自分で言ったくせにまるでどこか遠くから聞こえているようだった。
どうして、咲子じゃなくて私なの。
こちらを見返す仁科君の顔はいつものポーカーフェイスでその感情を読み取ることが出来ない。
もしかして、まさか、紛らわしいことはしないって言ったから?だから?
だから、私が勘違いしないように咲子を送らなかった?
ーーーーそれって、咲子が仁科君を好きだとしたら、すごく傷付くことだ。
ドクリと気味の悪い跳ね方をする心臓のせいで、一瞬だけ呼吸が止まる。
私を送ってくれることが嬉しいなんて、そんな風には考えられなかった。
ただ、私が言ってしまったせいで。
そのせいで、仁科君は咲子を避け始めている。
その事実に直面し、恐ろしいほどの後悔が津波のように押し寄せて来る。
最初のコメントを投稿しよう!