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「あー……ねむーい」
飲み始めてから三時間。
どうやら咲子の体力が限界に来たようだ。
酒癖が悪い上に結構な早さで睡魔がお迎えに来る咲子さん。
こういう所も可愛いなぁとか思っちゃうあたり、どうやら私はかなりこの女神にやられちゃってるらしい。
そしてきっと、同じようにやられている人物がもう一人。
「おい咲子。こんな所で寝るなよ?」
そんな風に言いながらも、咲子を見つめる目が優しい。
うん。
前から思ってたけど、やっぱりそうなんだろうな。
仁科君って、絶対に……
「ほら。送ってってやるから立て」
咲子の事が、好きだ。
優しい表情のまま困ったように微笑んでいる仁科君の目には、しっかりと咲子が映っているようだった。
やっぱり、そうだよね。
分かってる。
だから私は、いつも平気なフリをする。
「あー、飲んだ飲んだ!」
お店を出た直後両手で大きく伸びをする私に、咲子を支えながら出て来た仁科君が笑いながら横に立った。
「真尋ってほんと、見かけによらず酒強いよな」
「あはは、母親譲りなんだ~。ふにゃふにゃ~な顔してめちゃくちゃお酒強いの」
「ふはっ。ふにゃふにゃ~って……真尋そのまんま」
「う、るさいなぁ」
くくくと笑いを堪えているその姿に、胸の奥がキュッと引き攣った。
ああ、好きだなぁ……とか思っちゃってる自分。
分かってる。
これが、叶わない恋だって事は。
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