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「本当は今から打ち上げを……と言いたい所だけど、最近ずっと残業続きだったものだから家内がヘソを曲げてしまっていてね。どこにも連れて行ってあげられず申し訳ない」
ペコリと困った笑みで頭を下げられ、私は慌てて首を横に振る。
こんな風に素直な言葉で話す課長は、なんて素敵な人なんだろうか。
奥様は絶対に幸せだと思う。
「いえ!とんでもないですっ、私の事はいいですから早くお家へ帰ってあげて下さい」
そう伝えると、柿本課長の困った笑みがじんわりと優しい笑顔に変わって行く。
そしておもむろに差し出された右手には、有名な洋菓子店のロゴが入った袋が持たれていた。
「お詫びと言ってはなんだが、良かったら食べて下さい。今日は本当にありがとう」
「えっ、あ、あ、ありがとうございますっ」
まさかこんなお土産をもらえると思っていなかったものだから、驚きと同時に嬉しさが込み上げて来る。
勿論、この有名なお店の高級お菓子を食べられる事も嬉しいけれど、それ以上に柿本課長の心遣いが嬉しくて感動した。
多分電話をかけて来ると席を外したあの時に買って来てくれたんだろう。
こんなにもスマートで心のこもったお土産に、喜ばない筈がない。
「嬉しいです!食べるのが楽しみ」
「はは、鈴村さんは素直だね。君の長所だよ、素晴らしいと思う」
「えっ……ぁ、ありがとう、ございます」
「うん。それじゃあ、これで。お疲れ様」
「お疲れ様でした」という掛け声と共に頭を下げ、その後柿本課長の姿が遠くなるまで見送っていた。
課長。
やっぱり素敵だ。
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