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彼には音楽がどんな風に見えているのだろうか。
ふと彼に尋ねてみた。
彼はうーん、と唸り腕を組んで考え込む素振りをしたあと、首を傾げつつ言った。
「四角や丸の粒子に……色がついて、それが放射状? 違うかも、に散らばって空間に広がっていく感じ」
さっぱり分からなかった。すると彼はまたぶつぶつと何事かを呟き、それからポン、と手を打って言った。
「一言で表すなら、こう、パァァァって光って、パッて広がってフワーって感じ!」
……なるほど、分からない。
「そんなこと言われても……なんて言えばいいのか」
彼にはどんな風に世界が見えているのだろうか。
……きっと、色づく音楽の世界は彼だけにしか分からない、彼だけの特別な世界なのだろう。
どれだけの言葉を並べても、理解できることはない。
「どんな演奏でもそれなりの味があって面白いんだけど、中でもコンクールの演奏は一番だよね」
彼は楽しそうに言った。
「華やかで、どの演奏者もキラキラ輝いている。夢のような世界だ」
夢、か。
それからコンクールについて熱く語り、彼は突然こんなことを言い出した。
「ねえ、コンクール見に行こうよ!」
聞けば、週末に駅の近くのホールでピアノコンクールが開催されるらしい。 彼はそのチケットを譲り受けたという。枚数は2枚。同伴者を探していた。
……コンクールか。正直あまり気乗りはしなかった。
しかし、結局彼に押し切られた。
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