1【噂】

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「ところで…沢村よ。 『透明人間の館』って噂を聞いた事は無いかい?」 旧友の吉岡が、 生ビールの中ジョッキを一気飲みした後に、出し抜けにそんな事を言って来た。 「透明人間の館?何だそりゃ」 私もジョッキ片手に聞き返す。 吉岡は、私とは小学校時代からの幼なじみ… まあ、お互い大人になった今でもこうして交流を続けている、いわば腐れ縁の仲だ。 ここは、札幌・大通り公園のビアガーデン。 時期は、サンサンと陽射しが降り注ぐ七月下旬の真昼間の日曜日である。 私は、大学を卒業してから、何とかかんとか『沢村道場』という小さいながらも柔道の道場を開き、 現在、子供達に『ヤワラの道』を教えている。 私は、柔道をはじめ『和』のテイストが本当に好きだ。 だから、周囲から「似合わない」と言われながらも趣味で『染め物』なんかを始めて、完成品を道場に展示したりしてる。 さて。 お盆連休に入ると、我が教え子達が、わんさと道場にやって来る為、私は一足先にこの時期の一週間だけ道場を休みにして休養を取っていた。 そして、旧友の吉岡の誘いで北海道の短い夏を満喫しようとここ、ビアガーデンにやって来たのだった。 吉岡は、 現在、フリーのルポライターの仕事をしていて、普段は地元芸能人のゴシップネタやらグルメ情報やらを記事にして生計を立てている。 「いやさぁ。 お盆近しともなると、時期的に雑誌社の方でもオカルトネタの記事とか欲しがってさ」 と、吉岡がため息混じりに言葉を続けた。 基本、吉岡は心霊現象とかオカルト系の話は少し苦手な、どちらかと言えば怖がりな人間である。 しかし、こうして時々、クライアントの雑誌社からオカルトや心霊系の取材依頼が来れば、自分の生活の為に渋々引き受けているのだと言う。 対する私は、そのテの話は全く平気。 むしろ、学生の頃はよく友人達といわゆる心霊スポット探検にワイワイと繰り出したものだ。 「透明人間の館って…そんな噂は聞いた事無いけど。そういう建物が有るのか?」 私は、ビールをちびりと一口含むと吉岡に聞いた。
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