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「うん。そうなんだよ」
吉岡は、枝豆を口に放り込みながら言った。
「ある郊外に大きな廃屋が一軒、建っててさ。
その館の中に入ってみると、住人は誰もいないはずなのに変な物音や声が聞こえたり、館の備品がいきなり不自然に下に落ちたりするらしいんだよ」
「なるほど。それで、透明人間の館って訳か」
と、私は返答したが
「でも、その廃屋…
普通、無人の廃屋で物音や声が聞こえたりしたら、真っ先に幽霊とかを連想して『お化け屋敷』とか『幽霊の館』とか命名されるものだろ。
その廃屋に透明人間がいるとは、普通あまり連想しないんじゃないか?」
と、素直に思った疑問を言ってみた。
「あ、説明が足りなかったな」
と、吉岡は顔をほころばせながら口を開いた。
「実はその廃屋っていうのは、元々はある研究施設でさ。公的な施設ではなくて民間の個人研究所だ。そこに科学者と助手の二人が住み込んである研究をしてたらしいんだ。で、その研究内容ってのが『透明人間になる薬』の開発だったって言うんだよ」
「ほぉ」
私は、いささか荒唐無稽な話だなと思いつつも相づちを打った。
吉岡は、更に言葉を続ける。
「その建物は、関係者以外立入禁止でさ。周りの人達もそこで一体、どんな研究がされているのかなんて分からなかったらしい。しかし、いつからか『あの研究所では透明人間の研究をしているらしい』と噂が立ち、広まった。まあ、話が話だけに本当かよと思ってしまうがな。
それで…その噂が立ったのには、こんな理由が有る」
と、吉岡は胸ポケットからメモ帳を取り出すと、ページを開いて読み始めた。
その説明によると…
その研究者の名前は、織田山信太郎氏。
専門は物理光学…
要するに光の学問だ。
光学と一口に言っても物理光学の他にも幾何光学とか何種類か有るんだが、織田山氏はその全てにゾウケイが深くて、
『光』と名の付く事は何でもござれ、権威中の権威という人物だったらしい。
さて。
実はこの先生、とんでもない『理論』を発表して、学界を追われる事になる。
そして…
その理論こそが
『透明人間理論』だったんだそうだ。
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