18人が本棚に入れています
本棚に追加
その事件については、数年前の事とは言え、私も報道で知るくらいの知識は、持ち合わせていた。
その事件の舞台となった島…歓楽島というのは、
北海道の北端、宗谷岬から西へ30キロほど離れた海上に浮かぶ島だ。
実は、つい先日も、
その島にショッピングセンター建設の計画が有るという報道がされて、私の記憶にも新しい島だった。
吉岡は、言葉を続ける。
「でさ。
そんなマッドな科学者が、歓楽島に個人研究所を構えて、そして忽然と姿を消した。
と、なれば、
その科学者は透明人間の研究に、もしかしたら成功していて…
そして、自分自身が透明人間となって今でもあの無人の研究所に潜んでるのかもしれない…って噂が立つのも頷けなくもないだろ?」
「う~む、なるほど。
おおかた、その無人になった廃屋に肝試しか何かで面白半分で忍び込んだヤツが変な音や声を聞いて、それがきっと透明人間の仕業に違いないと噂になった。
そして、いつしかその廃屋は『透明人間の館』と呼ばれるようになった…と、そんな所か?」
私は、ビールに口を付けながら、吉岡の話を引き継いだ。
「そう。その通り」
と、吉岡は再び枝豆を口に放り込んだ。
「実は…な。沢村。
この織田山氏の研究に関しては、もう一つ『噂』が有るんだ」
「え?」
「いきなりだが、
友坂ジュンって覚えてるか?」
「うん??」
私は、吉岡の口から突然、別の人物の名前が出たので一瞬、混乱したが…
「ああ!
あの友坂ジュンだろ?
何年か前に逮捕されて自殺した舞台演出家の」
と、すぐに思い当たった。
最初のコメントを投稿しよう!