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友坂ジュンというのは、
数年前まで世間から騒がれた新進気鋭の舞台演出家だ。
彼は、『T・パフォーマンス』なる劇団の主宰をしており、
その演目は、総称して『人体アートステージ』と呼ばれ、
全身を赤や青や黄色など極彩色にペイントされた『演者達』がステージ上で様々なパフォーマンスをするという物なのだが…
それが、
三メートル近いセットから飛び降りたり、数十人で人間ピラミッドを作ったりと、
とにかく、危険が伴うものばかりで、実際に怪我人も出た。
後に警察の捜査が入り、
友坂が演者達に薬物を投与して自分の思い通りに操っていた事が判明、彼は逮捕される。
そして、獄中で自殺を遂げてしまうのである。
「実は、な。
その友坂が織田山氏の透明人間の研究費を全額、出してバックアップしてたって噂が有るんだよ」
「え?
そんな研究に金出して何のメリットが有るんだ?
例えば、舞台の演者達を透明人間にした所で、観客達の目にその姿は見えなくなる訳だろ?劇として成立しないだろ」
「そんな事は、俺にも分からんよ。しかしだな。
友坂は、元々は相当な金持ちの御曹司だったらしい。
しかし、彼が逮捕された時、その資産のほとんどが何かに使われて無くなっていたんだそうだ。結局、その金の行方は今でも謎のままだ」
と、ここで吉岡は言葉を切ると、
「それとだ。
友坂が警察に逮捕されたのとほぼ同時なんだよ。織田山氏と助手が忽然と姿を消したのが。
な?偶然にしちゃ、何か臭わないか?」
と、続けた。
「う~む」
私は、腕組みした。
「…で?
結局、お前はその『透明人間の館』とやらに取材に行きたいんで、私に一緒について来い…と、こう言いたいのか?」
「おおっ!何で分かったんだ?!」
と、吉岡はわざとらしく目を見開いた。
コイツは…
記事の取材でその廃屋に行きたいのだが、
ビビリだから一人で行くのは怖い。
だから、
柔道有段者で心霊スポット探検が好物のこの私に
一緒について来てもらって用心棒の代わりをさせようってコンタンなんだろう。
「な?頼むよぉ。
道場の方も今、休業中なんだろ?」
吉岡は両手を合わせて、お願いポーズをした。
「う~ん、分かった。引き受けるよ」
私は、ため息をつきながら言った。
「やったぁー!恩に着るよ!」
彼は、ニッコリ笑うと、
「実はさぁ。もうフェリーと宿の手配、二人分してあるんだよねぇ」
と、頭をかいた。
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