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「何でもしますから譲ってください…!あああ、可愛いい…!」
気持ち悪い…!
と内心叫びながら距離をとる。
すると、男は懐から小瓶を取り出した。
「今はこれしかありませんが、一度帰れば色々ありますよ?」
そういって小瓶をぐいと私に押し付ける。
「おうち、来ますか?」
にたりと笑みを浮かべられ、思わず口元が引きつる。
家になんて言ったらこのご時世、何をされるかわかったもんじゃない!
私は押し付けられた小瓶をためらいながらも手に取り、もたつきながらも鞄についていたマスコットを外し、一歩下がる。
「あげますから、家に行くのは遠慮させてください!」
「ええ?…うう、分かりました…。でも頂けるなんてありがたいです…!」
はは、と乾いた笑みを浮かべて頷けば「では、」と言って男に背を向ける。すると私の背に向かって男が続けた。
「その薬、飲むと1時間だけ透明になれるんです」
「……え、」
思わず振り返ると、男は澄ました顔で淡々と続ける。
「あの、それってどういう…」
「深い意味はありません。言葉通り、何のひっかけもありませんよ。年をとれば簡単な言葉に疎くなります。あなたは何が見たいですか?気になる異性の姿?テストの解答?…それとも、……自分がいない空間ですか?」
ぽかんとしたまま男を見つめる。
そんなお伽噺みたいな事があるだろうか。いやいや、こんなべたな事はない。ただの不審者、ただの不審物。
「あなたがいないところで、何が進んでいるんでしょうね」
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