第11章 セカンドヴァージン

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呆然として呟く。 「ずっと菜摘のそばにいたあいつには勝てないんだ。菜摘に必要なのは俺なんかじゃなくて結局」 「違う、そうじゃないってば、新崎。ちゃんと話聞いて、頼むから」 あんまり耳にした覚えのない菜摘の必死の声。腕を掴んで揺すられて、のろのろと彼女の方を向く。でも、もうどうでもいい。 理由を教えられても、菜摘が俺の元に来てくれないんじゃ。何だって変わらない。 別に知りたくもない…。 「新崎とは今まで通り友達でいたい。いつも一緒に、そばにいられたら…。でも、恋人にはなれない。いろいろ考えたけど」 「彼とは別れられない、か」 「…うん」 菜摘は俺の服の腕の部分をぎゅっと掴んで再び下を向いた。 「だって、そんなことしたら」 「いいよもう」 俺は無表情に菜摘の手を振り払った。 「聞いても何も変わらない。だったら聞きたくないよ」 俺は菜摘にこんなに冷たい声をかけたことがあっただろうか。痺れたような現実感のない頭で考える。 菜摘を傷つけるなぁ。何があっても彼女を傷つけたりしないってずっと思ってたのに。自分が振られるってわかったらいきなりこうか。 俺、情けないヤツだな…。 ふと、何の反応も声もないことに気づいて急に我に返る。俺のガキっぽい態度見て呆れてどっか行っちゃったかな。菜摘って時々無情だから。 慌てて振り払った手の方を見遣る。そして後頭部を殴られたような衝撃を受けた。 菜摘は泣いていた。 下を向いて、佇んだまま。子どもみたいに。髪に隠れた顔は見えないが、ぽたぽたと盛大に涙が落ちるのがここからも見える。 「新崎、話聞いて」 震える声を何とか絞り出している。 「わたしのこと嫌いになってもいいから。話だけはちゃんと最後まで聞いてよ。頼むから」 俺はぎゅっと両手の拳を握りしめた。彼女を抱きしめることも、頭を撫でることもできない。それがつらかった。 「…わかった。聞くよ」 菜摘は自分の腕でぐい、と涙を拭った。ああ、今日も多分俺、ハンカチ持ってないな。とぼんやり考える。以前、雨に濡れた菜摘を拭いてやれなかった時にやっぱりちゃんと持ち歩かないと、と思ってたのに。 「この間、新崎に彼と別れてって言われて。その時すぐに、そうだ、もう別れよう、って思っちゃったの、咄嗟に」 弾かれたように顔を上げる。…そうなんだ? 「だったら」
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