第11章 セカンドヴァージン

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「でも、そんなことしたら彼はどうなるのかって…。その時一瞬だけ、そこまで責任持てないって考えちゃって」 「…それは」 俺は言葉が喉に詰まったような状態で、何とか声を出す。 「だって、本当にそうじゃないか。菜摘が彼の人生の全部を背負うなんてできないだろ。そんなに責任感じなきゃいけないなんて、理不尽じゃないか?」 俺は思わず目の前の彼女に手を差し伸べる。菜摘は首を激しく横に振って後ずさった。 「菜摘、俺といたくないのか。俺のところに来てよ」 「駄目、そんな。自分だけ彼を置いて幸せになろうなんて。あたしは最低だと思う」 そんなことない。そんな風に考える必要なんか…。 「聞いて、新崎。わたしは彰良がどういう人か最初から承知で彼を好きになった。一筋縄でいかない、常識で測れない人だって身に染みてわかってる。他の男の人からだったら普通に得られるものも必ずしも受け取れない。それでもこの人がわたしを求めてくれたって事実には代えられない。それくらい奇跡みたいなことだと思ってた」 「…うん」 胸が痛い。でも、最後まで聞かなきゃいかないんだ。これは本当に菜摘にとって大切な話だから。そして多分、俺にとっても。 菜摘は憂鬱そうに続ける。 「でも最近、だんだん疲れてきて。彼が他人の感情を読んだり想像したりできないのは本人のせいじゃない。彼にはどうしようもないことなのに。なのに…、そんなこと、とっくに理解して覚悟も出来てると思ってたのに。…あの時、青木の部屋から帰ってきた翌朝」 俺は思わず彼女の両手を取って握りしめた。 「どうしても自分の部屋にいられなくて、彼の部屋に行った。彼の顔を見た途端どうしようもなく涙が出てきて…。でも、彼が言ったのは『目のところすごいよ。拭いたら?』だった」 「…うん」 そうだよな。本人にはどうしようもないことなんだ。 でも、頭でそれは理解してても…。 「自分の感情や気持ちをわかってほしいなんて贅沢だと思う。そんなのなくたって生きてける。普通の人同士だって全部理解し合うなんて出来やしないんだし。…でも、それより耐えられないのは、彼がわたしのこと必要って考えてるかどうかもわからないこと…」 「だったら…」 言いかけた俺を遮るように、菜摘は意固地に首を横に振った。 「例えばさ。子どもとか赤ちゃんが、高いところの危険とか怖さが全然理解出来てないとするじゃん」
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