第11章 セカンドヴァージン

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菜摘は目線を彷徨わせるようにして適当な例えを探しつつ続けた。 「そういう子どもを、高層ビルとかタワーの上で、両手で抱えて窓から差し出すわけ。下はずーっと、何にもない。その子を受け止めてくれるようなものは…。そうやっておいて、その子に『腕が疲れちゃった。離すよ?」って平気な顔を装って言うの。全然たいしたことじゃないよっていうみたいに…。そうして危険性も何もわかってない子どもがもし『いいよ』って答えたら。本人の了承はちゃんと取ったから、って言って離していいの?」 思いがけない例え話に、飲み込むのに少し時間がかかる。 「彰良は『わたししかいない』って意味がわかってないかもしれない」 菜摘の声が少し小さな、囁くような声に聞こえたのは気のせいかもしれない。こんなガード下で囁き声が耳に届くわけない。なのにそれは耳許で発されたように、やけにはっきりと聞こえてきた。 「わたしがいなくなったら彼と話の出来る人なんてほぼいない。彼本人はそのことを何とも思ってないかもしれない。わたしがいなくなってもしばらく気づきもしないかも。気づいても、藤川最近来なくなったな、って何となく思うくらいかもしれない。でも、本人が孤独を何とも思ってなくて平然としてるからって、一人しか乗れないカプセルに入れて宇宙に打ち上げて、もう二度と戻ってこられない軌道に載せようだなんて…」 俺に手を取られたまま、菜摘は俺の目をまっすぐ見上げた。もうその目に涙はない。 「危険性を理解出来ない相手に自己責任を押し付けるなんてできない。だから、彼にわたしを必要かどうか尋ねて、別にどっちでもいいよって言わせて言質をとるなんて卑怯だと思う。だからわたしは、ずっとここにいなきゃ。…彼がわたしがいようがいまいが気がつかなくても」 「でも」 手を振り払われないように力を込める。華奢な、柔らかい菜摘の手。絶対に離さない。俺のことを彼女が嫌いじゃないなら、諦めたら駄目だ。 ここで俺から離れたら、菜摘こそ遭難するじゃないか。 「疲れたんじゃないのか、菜摘」 俺は必死だった。 「恋人が感情や気持ちを理解してくれなくても仕方ないなんて無理だよ。相手のせいじゃないから我慢できるってもんでもないだろ。感情ってそんな風に理屈で納得できないよ。…つらいんなら荷物降ろしなよ。このままじゃお前が保たない」 菜摘の目が俺の必死な目を見返した。彼女の唇の端が微かに震える。
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