第11章 セカンドヴァージン

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…えーと。 それ以上、どういうこと?とも訊けずにただ菜摘の足取りのままに、部屋まで帰ってきたけど。 二人きりになりたいって、どういう意味だろう。いやまぁ文字通りその通りの意味だろうけど。てかそれはそうとしても。 二人きりになるってのも目的というか、想定されるシチュエーションはいろいろあるじゃん。単に二人きりってだけなら、今までだって散々この部屋で二人きりで過ごしてる。深夜ありさが帰宅するまでマジで二人きりだったことも多々ある。でもこのタイミング、この雰囲気。…まさか、翻訳の続きしよ!とは、言われないよね…? いやいや駄目だ。変な期待するな俺。 部屋の戸口でふるふると頭を横に振りたくなり、辛うじて自分を抑える。ただでさえさっきからずっと口数少なくなって不審に見えてるかもしれないのに。 菜摘のことだ。こっちの予想通り、期待通りの発想するわけない。大抵こっちの想像を外してくるに決まってる。二人でゆっくり部屋でコーヒー飲もうと思ってただけだよ、何期待してたの?とか。いやまぁせいぜい、さっきの話を落ち着いた静かな場所でゆっくりしたかった、とか。それでも勿論充分なんだけど。 ほんの少し前、菜摘を永久に失った、もう空っぽで何にもないと絶望を味わったのにこうしてまた彼女を取り戻したんだから。変な欲を出したらいけない。一気に何もかも手に入れようなんて厚かましいにも程がある。今は菜摘とこうして帰って来られただけでよしとしないと。 「どうしたの?上がらないの」 戸口であれこれ思い巡らしながら佇む不審な俺に、いつも通りさっさとリビングに入っていった菜摘が振り向いて声をかけた。 そうだよな、いつも通りだよ。全く俺、何変な期待してんだか。 軽くため息をついてリビングに入った俺は、目を上げて絶句した。菜摘はためらいもなく自分の個室のドアを開け放ち、俺の方を振り向いた。 「どうぞ。散らかってるけど」 …どうぞって…。 「いいの?」 一気に喉がからからになった。何か飲みたい。何か飲んで一息ついて気持ちを落ち着けたい。こんな時なのにそんな現実逃避的な欲求が勃然と沸き起こる。何考えてんだ俺。 菜摘は平常心としか見えない様子で、少し不審げに答えた。 「だって、そっちじゃ落ち着かないよ。ありさは今日夜遅いはずだから、まだ全然帰って来ないと思うけど…。ここなら鍵も掛かるし」 …鍵…。 えーと。 菜摘と密室に二人?ってこと?
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