第11章 セカンドヴァージン

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「…新崎」 背後から声をかけられて立ち止まる。語学の授業が終わった後、教室を出た廊下で。前の方に目をやると、何事もないかのように平穏に談笑しながら遠ざかる菜摘とありさの背中。二人の間で今現在、どういう状況になっているか伺わせるものは何もない。女の子って本当読めない。 かけられた声の主は、振り向く前から岡野であることはわかっている。何の驚きもない。 「よぅ」 「よぅじゃないよ。お前ら、なんかあったの?まぁ菜摘ちゃんはポーカーフェイスというか、相変わらずだけど。お前は上の空ってか、やけに元気ないじゃん。全部正直に顔に出るからな、新崎。ついに当たって砕けて振られたか。俺の出番か、そろそろ」 「いやお前の出番は永遠にないよ」 俺は冷たく言い放った。心はあなたのもの、とまで言われた俺が『待て』の順番待ちだってのに、お前なんかの出る幕あるわけないだろ。いやそのまんまの言葉で言われたわけじゃないけど。でも、内容はそれで間違いないよね? 「振られてもいないし。むしろ返事待ちだから」 正直にそう言うと、岡野は大袈裟に目を剥いた。 「そうか、やったな。ついに認めたか、自分に。勇者じゃん」 「いやこんな事態になるまで気づかないとはね。むしろ阿呆みたいだった、自分ながら」 「こんな事態ってなんだよ?」 尤もな疑問に口ごもる。まさか、ありさと菜摘を挟んで三角関係にとは言えないよな。いや実際問題四角関係か。少し考えて、そっちについては話してもいいかな、と思う。俺もこんなこと一人でずっと抱えているのはさすがにちょっとキツい。 「菜摘の付き合ってる奴のことなんだけど」 「あ、そういえば以前そんなこと言ってたな。菜摘ちゃんは好きな相手がいるって。何だよ、別れて俺のとこに来てくれとも言い出せないの?ヘタレだなぁ」 何だってこう遠慮がないんだ! 俺はぶすくれて言い返した。 「言ったよ。ちゃんとはっきりそう言った。…でも、そう簡単な話じゃないんだよ。いろいろ事情もあって…」 「ふぅん?」 階段横の休憩スペースにちょうど差し掛かったところで、岡野が当然のように自販機に向かう。飲み物でも買って、座って話を聞くというつもりらしい。俺もありがたくその流れに乗ることにする。 岡野は謎の炭酸飲料、俺は微糖コーヒーを買って椅子に掛けた。そう言えば最近コーヒーばっかりだな、俺。知らない間に菜摘に感化されてる。
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