第11章 セカンドヴァージン

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缶の蓋を開けることもせずに手のひらで弄びながら、思いつくままに菜摘の側の事情を説明する(勿論ありさとのことを除いて)。『彰良』の人物像を語り始めると、岡野の顔つきが変わった。少し目を細めるように考え込んで、ポツリと呟く。 「…高機能広汎性発達障害」 「はぅ?…何?」 「自閉症スペクトラムのどっか。だな、多分。すごく平たく言うと知的な障害のない自閉症みたいなもの。結構そういう特徴がはっきり出てる気がする、話聞いてると」 淡々と冷静に説明する岡野。俺は驚愕して尋ねた。 「何でそんなこと知ってんの、お前?」 「姉の子がもろそれだから。結構大変そうだよ。まだ全然小さいから、これからどうなるかはわかんないけど。今は療育受けてる」 「…療育?」 「治療と言うのは変だから。まぁ、生活訓練とかコミュニケーションの練習とかを小さいうちからしていくような感じらしい。その人もきっとそういうの、受けてきたんじゃないかな。お母さん苦労して来たっていうんでしょ?きっといろんなとこに相談してきたと思うよ」 「放っとかれてそうなってるわけじゃないんだ…」 俺が呟くと、岡野はきっぱりと首を振った。 「多分違う。話を聞くと知的なレベルは高そうだけど、コミュニケーション含む諸々の障害はかなり重そうだもん。多分、サヴァン症候群的な状態かもね。特別な能力に長けてる分、障害が強く出たりする。それでそれだけ一人でちゃんと日常生活を送れてるんだから、かなりしっかりした療育を早くから受けてたんじゃないかな」 「そうかあ…」 俺は深々とため息をついた。 「菜摘がいないと何もできない奴かな、と思ってた」 「精神的な支えとかそういう局面になるとわからないけど。一緒に住んでるわけでもなくて、週末だけなんでしょ?だったら日常生活は自立できてるんじゃないかな。そこは思いつめなくてもいいと思うよ。でもむしろそれより、お互いの精神的な結びつきを断ち切れるかどうかだね、いろんな意味で」 「そうだよな…」 俺は頭を抱えて、大きく息をついた。 「そうなんだよ。俺もその辺がよくわからない。二人が一緒にいるとこ二回だけ見たことあるけど、どっちもそんなに幸せそうにも見えない。嬉しそうな顔もしないし…。ただ、表情に出せないだけなのかもしれないよな。そういう特性があるんなら」 岡野はぐっとペットボトルの炭酸飲料を呷り、感慨深げに言った。
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